『世界屠畜紀行』 [本]
内澤旬子著・イラスト 『世界屠畜紀行』 解放出版社 2007.2
『赤目四十八瀧心中未遂』という映画を観て、肉を扱う仕事と差別に関し思うところがあったときに、立ち寄ったジュンク堂書店池袋本店で屠畜関連の特集が組まれていて平積みになっていたので購入。
著者の内澤旬子さんがTBS「情熱大陸」に出演されるなど、最近話題の書となっているようです。
魚は切り身の状態で海を泳いでいると思っている人をわたしは笑えない。さすがに切り身が泳いでいないことは知っているが、魚をおろせないからである。魚をさばくのはもっぱらスーパーマーケットの鮮魚担当者におまかせ。肉にいたっては、牛や豚はもちろんのこと鶏もさばいたことはないし、さばくところを見たこともない。今まさに口にしようとしているその肉が、どういう手順を経てここにたどりついたのかに思いを馳せることなどないまま、無邪気においしく食している。
著者の内澤さんは、イラストルポライター。
もともと工芸製本が趣味で、ルポ業のほかに工芸製本のワークショップを行ったりもしている。その製本の作業で革を扱うため、革なめしの工程を見たいという思いが、本書の取材を行うきっかけの一つでもあったそうだ。
日本では、屠畜の仕事に関わる人々が差別を受けてきた歴史がある。肉を食べることには伴わない忌避感が、なぜさばくことにはつきまとうのか、日本以外の国や地域ではどうなのかという疑問を出発点に、内澤さんは、韓国・バリ島・エジプト・チェコ・モンゴル・芝浦と場・沖縄など世界の屠畜の現場を訪ね歩く。
内澤さん自身あとがきで「屠畜という営みを心から、たぶん当事者以外ではだれよりも愛している」(p.363)と語っているように、著者が現場をワクワクしながら敬意を込めて見つめている感じが、文章からもイラストからも伝わってきて、おもしろく一気に読んでしまった。
出発点は屠畜の仕事と差別でありながらも、「まず屠畜という仕事のおもしろさをイラスト入りで視覚に訴えるように伝えることで、多くの人が持つ忌避感を少しでも軽減したかった」(p.363)というねらいは、少なくともわたしに関しては大成功だった。牛や豚や羊がさばかれ精肉になる過程を詳細なイラストで紹介されても、読後まず思ったのが「お肉食べたい」だったからである。
生き物を殺して食べるというのはどういうことなのかを考えるヒントがたくさん散りばめられているので、一つ一つ拾いながらもう一度読んでみようと思う。
そういえば、最近きちんと「いただきます」を言っていないなぁと反省。
(7月17日23:20追記)
ジュンク堂書店池袋本店での屠畜関連の特集は先月の話なので、現在は行われておりません。
情熱大陸で放送していた方の本ですね。結構イラストが素敵。旦那さんも編集者の方だったようです。屠畜という最も食にとって身近で以外と遠い分野ですが、なかなか題材を上手く扱われている本のようです。
by hukkatu (2007-07-17 20:54)
hukkatuさん
コメントありがとうございます。
by デクノボー (2007-07-17 23:21)